71歳で吉本興業の芸人養成所へ
2018年4月。NSC東京校に24期生として入学した私の年齢は、71歳。
その年になって、なぜ芸人を目指したのか。皆さん、気になりますよね。
転機になったのは、68歳の時に高齢者劇団に出会ったことでした。
最初は観客として楽しんでいたのが、いつしか演者側に。中学時代に演劇部だったので、なんとかなるだろうとたかをくくっていたところ、なにせ演劇用語がまったく分からない。
「板付きで出なさい」と言われれば、「私はかまぼこじゃないよ?」。
「そこ、はけなさい」と指示されても、「掃除じゃないんだし……」。
今でこそ、「板付き」は幕が上がった時にはすでに舞台上に立っていること、「はける」は舞台上から人や物が消えることだと理解していますが、当時はてんで話になりませんでした。
このままでは皆さんに迷惑をかけるし、本気でやるならちゃんと演劇の勉強をしたい。そんなふうに考えて、70歳の時、新聞の広告欄に載っていたいくつかの演劇学校などに電話をかけてみました。ところが、私の年齢を聞いただけでけんもほろろに断られる。
「うちは25歳以上は取っていません」「けがをすると危ないので」などと、きっぱりです。
もうダメかぁとがっくりしつつ、それでもあきらめきれず、「演劇の勉強したいんだけど、どこかないかしら?」と友人に相談したんです。そうしたら、ある日、薬の処方せんの袋に電話番号を書いたものを持ってきてくれました。
そうそう、高齢者はメモ帳を買いません。薬の明細書などを切って裏紙を使う。
戦後の物がない時代に育っているから、どんなものも無駄にしたくないんです。周りの友達は皆、同じように再利用しています。高齢者あるあるですね。
余談はさておき、書かれているのが電話番号だけだったので「これ何?」と聞いたら、「分かんないけど、演劇の勉強ができるとこらしいから電話してみ!」と友人。
どうやら、お子さんがインターネットで調べてくれたよう。