ホームグラウンドの神保町よしもと漫才劇場の前で(写真:『ひまができ 今日も楽しい 生きがいを』より)
厚生労働省の調査によると、2023年6月時点で70歳以上まで働ける制度がある企業は約10万社とのこと。社会が「人生100年時代」に向けて変化する中で、自発的に働く高齢者の方もいます。今回紹介するのは、77歳で芸歴5年の若手芸人「おばあちゃん」。おばあちゃんは在学中、「あまりでしゃばらないように気をつけていた」そうで――。

膝に爆弾を抱えた71歳

勘違いだらけの入学式を経て、いよいよNSCでの生活が始まります。若い人たちに交じって、1年間ちゃんとやっていけるのか、不安と期待を胸に授業初日を迎えたわけですが、まずは“あの”難関が待っていました。

勘のいい読者の方はお気づきかもしれませんが、そう「階段」です。

ビルの6階まで階段をのぼれることが入学の条件のひとつでした。

では膝に爆弾を抱えた71歳が無事、のぼれたのかというと……。

はい、のぼれました!

なぜなら、ビルの階段は人ひとりが通るのにやっと、というくらい幅が狭く、かつ両脇に手すりが設置されていたからです。両手で掴(つか)みながら歩けるので、のぼり下りはそれほど苦になりませんでした。

かといって、若い人たちのようにスタスタのぼれるわけではありません。牛歩のごとく、えっちらおっちら。私のペースで進んでいると、気づけば後ろに生徒たちが大名行列のように連なっているではないですか。

このままではマズいと授業2日目で気づいて以来、授業開始よりもだいぶ早い時間に着くように家を出発することにしました。

そのため、いつも一番乗り。事務所の方たちの出勤前に到着しているものですから、階段の踊り場で事務所が開くのを待ったものです。

また、私は荷物が多くなりがちで、リュックサックを背負い、キャリーケースをガラガラと引くのが毎度のこと。さすがに両方を持ってひとりで階段をのぼるのは老体には不可能でした。

近くに誰かいれば、皆さん手伝ってくださいます。そうではない時は、先にリュックサックを置きに上がったら、階段を下りて、今度はキャリーケースを手に再び運ぶ……と、階段を往復することもありました。

実はそれが、ものすごくいい運動になったんです。会費を払ってスポーツジムなどに行かずとも体重が減り、筋肉や体力がつきました。おかげで、定年後に手術した膝の調子は今でも良いままです。