「疑われる」ということは、介護を頑張っている証

画面越しに見る次女さんは、介護疲れなのか、肌つやも悪く、髪もボサボサ。

5歳年上の長女さんのほうが、むしろ若々しく見えます。

「母は、私のことがもともと嫌いなんですよ……」

そんな痛切な言葉を口にする次女さん。

聞けば、平井さんは、日中に来てくれるヘルパーさんのことは絶対に疑わないそうです。ニコニコと愛想よく振る舞い、なぜか次女さんにだけキツく当たり、疑いをかけてくる。それは結局、お母さんが自分を嫌っているからだ――。

涙をこらえて説明する次女さんに、私は言いました。

「それは、お母さんが誰よりもあなたを信頼しているからですよ」

「物盗られ妄想」は、記憶障害によって、どこにしまったかを忘れていることが大半です。平井さんは、化粧品やお金を自分で使ったことを忘れてしまいました。

そこで「誰かが盗った!」と妄想が始まるのですが、一方では、頭の中があいまいになっていることで「また自分が忘れてしまったのかもしれない」という不安もせめぎ合っています。

そのため、疑いをかける人物には、自然と「信頼しているから、困っている私を助けてほしい」「もし間違っていても許してほしい」という思いを抱えています。

つまり、「疑われる」ということは、介護を頑張っている証。
むしろ、自分を褒めてあげてもいいくらいです。

『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(著:川畑智、監修:内野勝行、マンガ:中川いさみ/アスコム)