指示をして動きにくくなるのなら、指示をしなければいい

このことを知らないと、介護の場で、かなり大変なことになってしまいます。

「はい、じゃあトイレに行きますよ。まず手すりを持って、しっかり踏ん張って立ち上がりましょうね、頭を下げますよ、せーの」

観念運動失行が起きている人は、この指示でもうフリーズです。

よかれと思って、

「ほら、足を踏ん張って。太ももに力を入れなきゃ立てないでしょ?」

と言葉を重ねるほど、「どうしたもんかねぇ」と動きは止まってしまいます。

ただし、観念運動失行への対応は、決して難しくありません。

あれこれ指示をして動きにくくなるのなら、指示をしなければいいのです。

ご飯を食べるときは、「じゃあ食べましょう。右手でお箸を持って、左手でお茶碗ですよ」と指示をするのではなく、「いただきます!」と言い、食べる姿を見せるだけ。トイレに連れていきたければ、「こっちへ来てください」と手招きするだけで、自然と立ってついてきてくれます。

そうやって、動作のはじめの合図になるところだけを出してあげて、あとは自然と体が動くという状況をつくってあげましょう。

『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(著:川畑智、監修:内野勝行、マンガ:中川いさみ/アスコム)