(写真:PhotoAC)
「子どもはラクラクとことばを覚えられてうらやましい」「幼い時から外国語に触れていたら、今頃はバイリンガルになれたのに…」。いずれも「ことばの学習」についてよく耳にする一言です。一方「赤ちゃん研究員」の力を借りて、人がことばを学ぶプロセスを明らかにしてきた東京大学の針生悦子先生は「赤ちゃんだってことばを覚えるのに苦労している」と断言します。その無垢な笑顔の裏で、実は必死にことばを学んでいた…あなたは信じられるでしょうか? 書籍『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』をもとにした本連載で、赤ちゃんのけなげな努力に迫ってまいりましょう。

子どもがバイリンガルにならない場合

両親がそれぞれ別の言語の母語話者で、子どもにはそれぞれの母語で話しかける場合、子どもがバイリンガルに育つこともあります。しかし、そうはならない場合も事実としてあるのです。

子どもが赤ちゃんのときであれば、環境はほぼ親がコントロールできるかもしれません。話しかける言語はもちろん、何を食べさせるか、どんな服を着せるか、部屋の温度はどのくらいに設定するか、なども含めてです。

しかし、家庭外の園や学校に行き始めれば、子どもにとっては、そこでの人間関係も大切になってきます。子どもの成長にともない、一日の起きている時間のなかで、そういった家庭外で過ごす時間は増えていきます。

たとえば父親が日本語の母語話者、母親が英語の母語話者で、日本に住んでいるという場合、地域の園や学校に行けば、そこでは誰もが日本語を使っています。そうなると園や学校に行く前には英語と日本語という2つの言語を聞き話していた子どもでも、生活のなかで日本語を使う時間がどんどん増えていくのです。