「何の話っすか?」
 健一が稔に言った。
「オヤっさんが何をされたいのかわからないという話だが……。おまえ、けっこう同行しているから、何かわかるんじゃないのか?」
「自分は車運転しているだけですから、何もわかりませんよ」
「そうかあ……」
 日村は言った。
「俺たちがあれこれ考えてもしかたがない。それより、鐘の話だ。なくなってもいいと思うか?」
 健一が考え込んだ。
「なくなっても、別に困ることはないでしょうね」
「そうか……。そうだな」
「でも、なくても困ることがないからといって、何でもなくしてしまうのは、ちょっと違うんじゃないかと思います」
「ちょっと違う?」
「ええ。それって正しいのかなって思います」
「無駄なものはなくしたほうがいいだろう」
「はい。それはそう思います。でも……」
「でも……?」
 健一がうまく説明できないと見て取ったのか、真吉が言った。
「刺身のツマってありますよね?」
「大根を細く切ったやつとか、大葉とかだな」
「あれって、必要あるかといったら、ないですよね」
「食べずに残すことが多いな」
「だったらなくていいかといったら、そうでもないでしょう」
「ないと淋しいな」
「そういうことだと思います」
「寺の鐘と刺身のツマはいっしょにできないだろう」
 真吉は言った。
「健一さんの言いたいことはわかるんですが、自分もうまく説明できません」
 すると珍しく、テツが発言した。
「大根のツマは、刺身から出る水分を吸収して、新鮮さを保つ役割があるそうです」
「え?」
 日村は、思わず聞き返した。「そうなのか?」