日村は意外に思って健一を見つめた。健一は居心地悪そうに目をそらした。つい睨(ね)めつけるようなヤクザ独特の目つきをしていることに気づいて、日村は目力を抜いた。
健一のような若者が、古風な社会のありかたを望んでいるような気がして意外だったのだ。
「先祖供養なんて面倒臭いぞ。東京はまだいいが、田舎に行くといろいろなしきたりがある」
「しきたりなら、俺たちの世界にもたくさんあるじゃないですか」
「まあ、そりゃそうだが……」
たしかにヤクザ稼業は約束事が山ほどある。
「それに、面倒臭いから、代わりに寺で鐘を撞いたりしてくれるんじゃないですか?」
「なるほど、そういうことかもしれないな……」
「だから」
健一が言った。「俺、鐘なんかいらないっていう世の中よりも、鐘をありがたいと思っている世の中のほうが好きです」
真吉が言った。
「自分も、鐘をなくすのはなんだかバチ当たりな気がします。バチ当たりなことを当然のことのように言う世の中は、やっぱ嫌です」
はみ出し者の健一たちが、先祖供養だバチ当たりだという話をしているのが不思議な気がする。
しかし、そう感じている若者は少なくないのかもしれない。彼らはきっと、今の世の中を息苦しく思っているに違いない。
まあ、いつの世でも若者は息苦しく思うものだ。それに耐えられなかった若者がここにいる。
自分もその一人だと、日村は思った。