次に右手は膝の上にのせたまま、左手で左側の襖を開け、左手を膝の上に戻して右手で右側の戸を開ける。右手で中の棗を取り出し、左手に受ける。そのまま右手で右側の戸を閉め、右手に棗を持ち替えてから、左手で左側の戸を閉める。右手の棗を棚の正面の右寄りの畳の上に置き、勝手付の茶碗の左手前、右真横、左真横を持って、棗の左横に置く。
一度に両側の襖をばっと開けて取り出さないのは、客人に襖の内部を見せないためである。取り出す所作はともかく、使わないほうの手を膝の上にのせるのを忘れてしまい、空いている手が空中でドラえもん状態になっていたり、両手で棗を持とうとしたりしてしまう。
(亭主は右手は必ず右膝の上、左手は必ず左膝の上と、教えていただいただろうがっ!)
と自分自身に腹が立ってくるが、師匠から、
「右手……」
といわれてふと気がつくとドラえもんになっているのが情けない。膝の上に手はあるが、右手が左膝の上、またその逆だったりすることもある。自分でもどうして体をねじってしまうのかはわからないが。気がつくとそうなっているのである。
お点前は薄茶と同じなのだけれど、口が細く、天井からぶら下げられている釜から、湯を掬すくうのも大変で、だんだん釜の揺れが激しくなってきた。釣釜には春の季節のゆらぎを感じさせる風情があるらしいが、それとはほど遠い、
「地震か?」
と不安になるような揺れ方だった。
「釜の口が細いから、やりにくいわね」
師匠が鎖と釜の鉉(取っ手)を持って揺れないようにしてくださった。
「申し訳ありません」
と謝りながら、湯を掬ったり、水を一杓補充したりして、やっとぶら下がるお釜との闘いは終わった。