「お濃茶になると、帛紗の四方捌きがありますからね」

「闘球さんや、白雪さんがやっていた、帛紗を広げてじっとみる、あれですか」

「そうです」

帛紗を広げて四辺を確認し、それからお茶入を清めるために、薄茶のときと同じように帛紗を捌くのである。私の帛紗には柄があるので、それで裏表もわさの位置も確認できるのだけれど、師匠や先輩方の帛紗は無地なので、よくあれでわからなくならないなあと失礼ながら感心するばかりだ。

「お濃茶には必ず拝見がありますからね。重要なセレモニーなので」

カジュアルな薄茶でさえうまくできないのに、そんな重要なお点前が覚えられるのだろうかと不安になってくる。あまりに緊張しすぎて、干菓子をいただく際に、今まで何回もやってきたのに、懐紙のわさが手前になるのか向こう側になるのかわからなくなり、師匠にそっと聞いてしまった。こんな超初心者の私が、濃茶のお点前を習っていいのだろうかと心配になってきた。

先輩がたが揃うのを待って、濃茶のお点前を教えていただいた。濃茶ではお茶を入れる際に、最初に茶杓で三杓掬いだしたあと、お茶入を傾けて残りの抹茶を回し出しする。お茶入は筒状ではないものが多いので、スムーズに出てこない。

つい全部だそうと、茶碗の上で振りたくなってしまうのだが、そういうことはしてはいけない。あまりに傾けるとお茶入を茶碗の中に落としそうになるし、緊張の連続だった。そっとのぞくとお茶入の中に残って、うまく回し出せなかった。

『老いてお茶を習う』(著:群ようこ/KADOKAWA)