母親のために

料理を口に運びながら、つむぎがはじめて薬学部を志した理由を教えてくれた。

娘なりに母親のためになにかできることがないか、心を痛めて考え抜いた結果だったのだ。

「福が来てからというもの、顔を合わせての会話はもとより、離れていてもしょっちゅうLINEでやりとりするようになった」(写真提供:著者)

もともとそんなに勉強が好きではない彼女が、薫のがんが再発してから人知れず猛勉強を始めた。

そんなことにすら気づかないなんて、本当にダメな父親だ。自分だけが頑張っているなんて思い上がりも甚だしい。

僕と娘の関係性の変化を誰よりも喜んでいたのが薫だった。

「つむぎはああ見えて気難しいところがあるから。こばちゃん(薫は僕をこう呼んでいた)とつむぎが仲良くなって本当によかった、これで安心だわ」

ひとつずつ、心配事を整理して、未来に向けた心の準備を始めていたのかもしれない。