イラスト=川原瑞丸
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「すべてを糧に」。アメリカのポップスター、マイリー・サイラスが第66回グラミー賞を受賞。著名なカントリーシンガーを父親に持つ彼女の栄光を掴むまでの道のりと、そこから生まれる楽曲の力とは――。

過去のイメージからの脱却

アメリカのポップスター、マイリー・サイラスが第66回グラミー賞最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞と、年間最優秀レコード賞を受賞した。20年以上になる芸能キャリア初となる。よほど嬉しかったのか、授賞式のパフォーマンス中に「グラミーを受賞したわ!」と声をあげたほどだった。

約7年前、当連載でマイリーを取り上げたことがある。著名なカントリーシンガーを父親に持ち、子ども向けケーブルテレビで大ヒットドラマの主役を務めたのが14歳の頃。そこから押しも押されもせぬトップアイドルになった彼女が、純真なイメージを払拭せんとばかりに性的な出で立ちで向こう見ずなパフォーマンスを行ったのが20歳の頃。その様子に世界中が眉をひそめつつ、夢中になった。ゴシップばかりが話題に上るようになったのは、過去のイメージから脱却するための変化がいささか過激だったからだろう。

一方で、キャリアを重ねるごとに音楽性はどんどん研ぎ澄まされていった。過去にリリースされたアルバムですべて全米1位を記録したマイリーは、4枚目のアルバムの収録曲「レッキング・ボール」の挑発的なミュージックビデオで再生回数約9億回を記録。アルバムも再び全米1位を獲得した。「ゴシップだけ」ではないことを数字で証明したのだ。

そして24歳になったマイリーは、カントリーロック調のアルバム『ヤンガー・ナウ』をリリースした。ナチュラルな姿を晒し、「過去の自分を否定はしない 変化こそが私が信用しているもの」と歌った。これまでの騒動も、再び自分を獲得するために必要な長旅だったと作品から伝わってきた。自己表現に過激なモチーフを必要としなくなったのが24歳と考えると、早熟とも言える。