オランダの堤防の地図記号

かつてオランダの地形図の凡例を見てまず驚いたのが、その「堤防」の記号だった。

現代オランダ語で堤防はダイク(dijk)というが、それが「2.5メートル以上の堤防(ダイク)」と「1~2.5メートルの堤防」、それに「1メートル未満の堤防(カーデ)(kade)」の3種類に分類されていたのである。

『地図記号のひみつ』(著:今尾恵介/中央公論新社)

「世界は神が造ったが、オランダはオランダ人が造った」という言葉で知られる通り、かの土地に暮らした人々は12世紀頃から海辺の沼沢地を堤防で囲んでは干潮時に排水し、ポルダーと呼ばれる干拓地を少しずつ増やしてきた。

このため堤防の高さの違いはときに命に関わる重大なものであったがゆえに、あえて3種類の記号で区別したのだろう。オランダ以外の国でこのような分類をした例は見たことがない。

ポルダー名物の風車もオランダの官製地形図には定められているが、もちろん飾りではない。じわじわ浸入する水を川に戻すために設けられたものだし、木靴もぬかるみの多い「水郷暮らし」に適応したものである。