(撮影:婦人公論.jp編集部)
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長の樋口恵子さんによる『婦人公論』の新連載「老いの実況中継」。91歳、徒然なるままに「今」を綴ります。第14回は、【身体の不調をなだめつつ】です。(構成=篠藤ゆり イラスト=マツモトヨーコ)

あちこち具合が悪くトホホな毎日

90歳を過ぎたころから、体調と気力に波が訪れるようになりました。元気で気持ちが前向きな日もあれば、しんどくて横になりたい日もあるのです。

2023年末も、胃腸の調子がかんばしくなく、食欲が湧かなくなりました。食べることが何より好きだったので、思いのほかがっくり。

「私の命もこれまでか。91年間それなりに頑張ってきたし、いい人生だったのだから、まぁ、よしとせねば……」などと、自分を慰めていました。

ところが年が明け、毎年楽しみにしている「箱根駅伝」の中継を見ているうちに、不思議とエネルギーが戻ってきました。日頃は些細なことで言い争いがちな娘とも、「おぉ、青学が返り咲いたか」などと、平穏で楽しい会話の花が咲く。「よし、もうひと頑張りするか」と、気力が湧いてきました。

このまま順調に行くかと思っていたのに、お正月が明けてしばらくしてから、またもや少し意気消沈。というのも、舌で歯をさわると、どうも歯がちょっと欠けているようなのです。そこでさっそく歯科医に行ったところ、歯が3本ダメになっていました。

歯科医からそう告げられたときの気持ちは、「あぁ、ついにその日がきたかーー」。

私はわりと歯が丈夫で、80歳で20本の歯を残そうという「8020運動」は楽々クリア。「歯だけはまだ若いんです」などと自慢していました。でもまぁ91歳ともなれば、耳が遠くなり、目が衰え、歯も悪くなるのは致し方ありません。身体のどの部分から衰えていくのかは、人それぞれ。私の場合はまず足腰が弱り、耳と歯の衰えは、比較的遅かったと思います。

なかには脳梗塞の後遺症によって半身が不自由になるなど、病気の影響で身体の不具合を抱える人もいるでしょう。腰椎圧迫骨折をきっかけに、歩くのがしんどくなる人もいます。老い方の多様性をつくづく実感するとともに、実際にその立場にならないとわからないことがたくさんあると、改めて謙虚な気持ちになりました。