〈カラオケdondon〉の奥まった一室。そこは通称〈バイト・クラブ〉のための部室。ここの部員になるための資格は、【高校生の身の上で「暮らし」のためにバイトをしていること】。市内で銃撃事件が発生。撃たれたのは、夏夫の父で暴力団員の〈長坂康二〉だという――。

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坂城(さかしろ) (さとる) 市立一ノ瀬(いちのせ)高校二年生
〈アノス波坂(なみさか)SS〉ガソリンスタンドアルバイト
 

 たまたまだったんだ。
 事務所の中のテレビはいつも点(つ)けっ放しになっていて、車の修理待ちのお客さんが適当に観ていられるようになっているけど、音はほとんど聞こえないぐらいにしか流れていない。
 俺が事務所の中に入って休憩しようとしたときに、テレビでニュースをやっていてテロップに〈長坂康二(ながさかこうじ)〉って名前があった。
「え?」
 その声に、カウンターの中にいた店長が反応して同じようにテレビを観て、「えっ!?」って声を上げた。
 慌てて、ボリュームを上げた。
 市内のレストランで発砲事件があって、暴力団組長の〈長坂康二〉が死亡したって。
 拳銃で撃って逃げているのは別の暴力団の人間らしいって。警察が犯人の行方を追って捜査中だって。
 そういうニュース。
「店長」
「うん」
 間違いなく、夏夫(なつお)くんの父親だ。
 店長が何かを考えるように少し首を傾(かし)げて、事務机の引き出しを開けて、何かを取り出した。名刺を入れておくファイルだ。
「夏夫くんは、今日もバイトしているんだろうね」
 ファイルをめくりながら言った。
「そのはずです」
「今まで、夏夫くんからお父さんの関係の人、つまり暴力団関係者とかに会ったことがあるとか聞いたことある?」
 いや、そういうのは、ない。