健康なうちに

2 ふるさとに帰らなかったこと

死が近くなると、人は昔を思い出すものです。個人差はありますが、例えばがんの末期の場合に、亡くなる1週間前ごろから「終末期せん妄」といって意識が変容して、時間や場所の感覚が曖昧になることがあります。

あるいはそれより少し前の段階で、昔のことを語りだす人がいます。意識はしなくても、人の心の奥底に眠っていた幼少期のことや、かつて住んでいた場所、そこでともに生きた人の記憶が顔を出すのです。

そのためでしょうか、死が迫ると、ふるさとに帰りたい、親の墓参りをしたいという人も中にはいらっしゃいます。しかし、病状によってはすでに故郷に帰ることが難しくなってしまっていることもあります。

死が迫ると、ふるさとに帰りたい、親の墓参りをしたいという人も中にはいらっしゃいます(写真提供:Photo AC)

故郷を訪れるならば、健康なうちが良いでしょう。体が動かなくなってしまってからでは遅いのです。

私の知っている患者さんに余命が1、2か月以内とも思えるほど衰弱されてから、里帰りを実行した人たちがいます。

それをきっかけに生命力を取り戻して何と1年近く生きた人、故郷で幸せな最期を迎えた人もいます。それらの方の場合は、故郷に行くことが人生にプラスの影響を与えたように見えました。

ただ、誰もが同じことをできるわけではありません。死期が迫ってから後悔しないように、早めに計画・実行していくとよいでしょう。