厄年
某日、赤坂の書店を渉猟していると『課長の厄年』(かんべむさし・著)という文庫本が目に留まった。タイトルに閃いたのである。これはイケルと思ったのだ。内容はどうあれ、タイトルが「イタダキ」だった。『代議士の妻たち』の時と同じだった。
私の「厄年」は、前年の91年だった。実際、その年にいわゆる「スランプ」状態に陥った。期首の特別企画ドラマが当たらず、連続ドラマの企画を出しても通らない。90年までとは大違いだった。体調面でも、それ迄と違って「無理」が利かなくなった。
同世代なら、皆似たような経験をしているのではないか。よし「厄年」をテーマにすればドラマが出来るぞと思い立った。私自身、「厄」が明けた92年の6月中旬、「副部長」という管理職となった。一般企業なら「課長」である。
10月の終わりに、編成部に正式に企画を提出した。編成部や代理店・電通の感触は良く、準備を進めることになった。脚本は6年振りに布勢博一に依頼、快諾してもらった。このドラマの成否が、主人公の「課長」を誰が演じるかにあるのは明らかだった。
ここで、私は「逆転の発想」をしたのである。いわゆる「らしい」俳優を起用しても、プラスαは望めないだろう。今まで一度も堅気の「課長」役などやったことのない俳優で、「課長」をやらせたら面白そうな俳優はいないかと絞り込んだ。
ちょうど、その頃流れていたショーケンこと萩原健一の「サントリー・モルツ」のTV・CMがちょっと気になった。仕事帰りの中年サラリーマンのショーケンが、ビールを飲み干し、「うまいんだなあ、コレが!」と呟く。この様が、実に良かった。
ショーケンが、主人公「寺田喬課長」の本命となった。