「はず」には十分気をつけて

50代〜60代といえば、まだ若い。でも、その頃から油断は禁物です。

知人のなかに、駐車場を出るとき「昨日までなかったはず」の、ポールとポールの間の鎖に足をとられて転んだ人がいますが、この「はず」が、クセモノなのです。

樋口恵子さん(2021年9月撮影。写真:本社写真部)

私の体験では、講演会の壇上で、動かない「はず」の机が実は可動式だったことがあります。手をついたとたん動きだし、とっさにつかまった椅子がこれまた可動式で、そのままスッテンコロリン。大勢の人が見守るなか赤っ恥をかきました。

両手いっぱいの買い物袋を抱えて、急いで玄関で靴を脱いだ「はず」……だったのに、片方がまだ脱ぎきれてなくて上がりかまちにひっかかり、そのままつんのめって転んだこともあります。

このくらいの段差は飛び越えられる「はず」。

いつもの階段だから、暗くても体が覚えている「はず」。

この手の「はず」には、十分気をつけなければなりません。

老いのとば口では、「こんなはずでは!」の出来事がよく起こるもの。体は変わりつつあるのに、頭と気持ちは若いときのまま。そのギャップが悲劇を生むのです。

何ごとも急がず慎重に、が大事です。出かけるときは、時間に余裕をもちましょう。駅の階段を歩くときは、できるだけ手すりのそばを。バッグのなかの財布を探しながら、携帯電話でおしゃべりしながらなどの「ながら歩き」はやめましょう。ドアが閉まりかけた電車に走って飛び乗ろうなど、もってのほかです。