「お前は笑顔がいいんだから、もっと笑えよ」
『西部警察』で僕が演じた巽(たつみ)という刑事は、番組スタートから半年後に殉職するという設定でしたが、81年に鳩村という刑事役で再出演することになります。その間に僕が自ら志願して石原プロモーションに入社したのは、渡さんに憧れていたからです。その渡さんが「お前には華がある」と言ってくださって。僕はその言葉だけを心の支えにして役者を続けてきました。
もう一つ、「お前は笑顔がいいんだから、もっと笑えよ」と忠告されたことが忘れられません。当時の僕は役者としてやっていく自信がなく、それでいて世の中を斜めに見て「どうせ俺なんか」と不貞腐れていたのです。せめてもの抵抗として、あるいは弱さを隠すための手段として、強面を貫いていた。でも渡さんは何もかもお見通しだったのでしょう。「もっと大人になれよ」と諭された気がして、ハッとしましたね。
渡さんが僕に遺してくれたのは形のない形見。俳優としてのたたずまいや、男として、人としての正しき心の有りようといったことです。僕は、渡さんを通して人生を見てきたから、自分は役者街道を、もっといえば人生を、ちゃんと歩んでくることができたのだと確信しています。