義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
車に乗り込み、綾瀬の事務所に向かう。
後部座席の阿岐本が言った。
「昨日、俺たちが原磯に会いにいくと言ったときの田代住職の様子がちょっと妙だったが、原磯のことを胡散臭(うさんくさ)く思っていたからなんだな」
やはり、オヤジも気づいていたかと、日村は思った。
「住民に鐘の音にクレームをつけろとけしかけたのが原磯じゃないかと疑っている様子でしたね」
「案外、的を射ているかもしれねえな」
「原磯は駒吉神社や西量寺を宗教法人ブローカーにつなぐつもりでしょうか」
「そうだろうよ。狙いはキックバックとかリベートだろうな」
「あと、法人の売り買いのときに関わっておけば、後々土地や建物の売り買いに手を出しやすいでしょうね」
「そうだな。不動産屋だからな。だが……」
「はい?」
「ここでいくらそんな話をしていても、証拠や証言がなければどうしようもねえな」
「田代住職が、さりげなく調べてみるとおっしゃっていましたが……」
「期待していいかもしれねえ」
「藪蛇(やぶへび)にならなければいいんですが……」
「だから、おめえは心配性だって言うんだよ」
「はあ……」