伊藤 そのときね、ああ、私はこの男の子ども時代は知らないけど、最後はちゃんと男の一生を掴んだ、見届けたなと思ったの。
阿川 はぁー(爆笑)。それはやったことがないですけど。
伊藤 夫でやってください。年の差はおいくつなの。
阿川 私のほうが5歳下。
伊藤 じゃ大丈夫。いける。(笑)
阿川 母は明るい認知症で、父が入院したら解放されて、少女のようになっていったのね。私のことは「お姉さん」になって、そのうちに「お母さん」って言うようになった。で、あるときついに「おばあさん」。
伊藤 アッハハ、昇格した。
阿川 「ええっ、おばあちゃんなの」って聞いたら、母がニーッと笑って「だって、シワだらけだもん」。
伊藤 ちゃんと見えてる。
阿川 お互い真っ裸で一生懸命お風呂で母のこと洗っていると、「アンタ、お腹出てるわねえ」。若いときは自分に介護なんて無理、とか思ったけど、実際やってみると毎日が事件じゃないですか。それに対応してると、何でもできるものよね。
<後編につづく>
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阿川佐和子
エッセイスト、作家
1953年、東京生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒。エッセイスト、作家。99年、檀ふみとの往復エッセイ『ああ言えばこう食う』で講談社エッセイ賞、2000年、『ウメ子』で坪田譲治文学賞、08年、『婚約のあとで』で島清恋愛文学賞を受賞。12年、『聞く力――心をひらく35のヒント』が年間ベストセラー第1位、ミリオンセラーとなった。14年、菊池寛賞を受賞。最近の著書に小説『ことことこーこ』『ばあさんは15歳』、エッセイ集『レシピの役には立ちません』『吾も老の花』『だいたいしあわせ』『老人初心者の青春』など多数。
伊藤比呂美
詩人
1955年、東京都生まれ。詩人。78年に現代詩手帖賞を受賞してデビュー。80年代の女性詩人ブームをリードし「育児エッセイ」の分野も開拓。2018年から21年まで、早稲田大学教授。06年『河原荒草』で高見順賞、両親の老いや死を見つめた『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(07年萩原朔太郎賞、08年紫式部文学賞受賞)、お経の現代語訳に取り組んだ『読み解き「般若心経」』、他の著書に『ショローの女』『森林通信―鴎外とベルリンに行く』『わたしのおとうさんのりゅう』『対談集 ららら星のかなた』(谷川俊太郎氏との共著)などがある。