伊藤 そのときね、ああ、私はこの男の子ども時代は知らないけど、最後はちゃんと男の一生を掴んだ、見届けたなと思ったの。

阿川 はぁー(爆笑)。それはやったことがないですけど。

伊藤 夫でやってください。年の差はおいくつなの。

阿川 私のほうが5歳下。

伊藤 じゃ大丈夫。いける。(笑)

阿川 母は明るい認知症で、父が入院したら解放されて、少女のようになっていったのね。私のことは「お姉さん」になって、そのうちに「お母さん」って言うようになった。で、あるときついに「おばあさん」。

伊藤 アッハハ、昇格した。

阿川 「ええっ、おばあちゃんなの」って聞いたら、母がニーッと笑って「だって、シワだらけだもん」。

伊藤 ちゃんと見えてる。

阿川 お互い真っ裸で一生懸命お風呂で母のこと洗っていると、「アンタ、お腹出てるわねえ」。若いときは自分に介護なんて無理、とか思ったけど、実際やってみると毎日が事件じゃないですか。それに対応してると、何でもできるものよね。

<後編につづく

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