(画=一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回は「 天津飯と『ろうやぼう』」。食べに行ってからハマっているという天津飯の話、そして一緒に食べに行った女友達のルッキズム論について――(画=一ノ関圭)

天津飯にハマっている。

急に食べたくなって、女友達を誘って食べにいったのが発端だった。卵の部分はもちろんだが、なにより白いご飯がうまかった。とろとろのあんをたぷたぷにからませて口に入れるその感触が、至福すぎた。

家に帰って、そのまま毎日作り続けている。そういえばだいぶ前にオムライスにハマった。あのときのハマり方にも似てるのだが、天津飯は、オムライスより好きなんだと思う。飽きずに熱がずっと続いている。

二年前オムライス熱にかかったときに買った二十センチのフライパンは、丁寧に使っているからまだ新品同様で、毎回レンジの前でぴかぴか光るフライパンを取り出す瞬間も、誇らしくてとても好きだ。

嚥下障害のある高齢者は、とろみをつけたものなら吞み込みやすい。寝たきりの母もそうだった。病院の食事はみんな形をつぶされて、とろみをつけてあった。それを見て、いやだなこんなものを食べるのはと思っていたが、違う。知らなかっただけだ。おいしいのがわかった。今はもう、ああいう食事を食べるのが楽しみでならない。