紙幅が尽きる前に、天津飯、あたしのコツを語ります。あたしが作るのは芙 蓉蟹 (フーヨーハイ)自分でご飯に載せてセルフ天津飯です。

蟹かまとみじん切りの葱。フォークでよく溶いた卵三個に、塩少々と白胡椒。

まず、あんを作る。量は超たっぷり、味は超薄め。でないとあんを最後まで食べ尽くせない。中華用チキンスープ、酒をだばだば、砂糖少々、めんつゆ少々。水溶き片栗粉でとろみをつけておく。

なによりのポイントは油の多さだ。

天ぷらですかという量の油を、この動作をやり続けて五十年というような料理人の姿勢とスピードでフライパンに入れてよくよく熱し、しゃっと音を立てて卵を流し入れ、強火で手早く、半熟が半熟じゃなくなるその瞬間に火を止める。深皿に移して、あんを注ぐ。溺れるかというところまで。

オムレツ風の溶け出してくる半熟より、ぱりっと焼いた中にうまさを封じ込めた卵の方が、あんに、すっきりとよくからまる。

(画=一ノ関圭)

人気連載エッセイの書籍化『ショローの女』発売中!

米国人の夫の看取り、20余年住んだカリフォルニアから熊本に拠点を移したあたしの新たな生活が始まった。

週1回上京し大学で教える日々は多忙を極め、愛用するのはコンビニとサイゼリヤ。自宅には愛犬と植物の鉢植え多数。そこへ猫二匹までもが加わって……。襲い来るのは台風にコロナ。老いゆく体は悲鳴をあげる。一人の暮らしの自由と寂寥、60代もいよいよ半ばの体感を、小気味よく直截に書き記す、これぞ女たちのための〈言葉の道しるべ〉。