(画=一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫2匹(メイ、テイラー)と暮らす日常を綴ります。今回は「がむしゃらと馬車馬──引用です」。去年の年末から休みなしと嘆く伊藤さんですが――(画=一ノ関圭)

あたしにはずっと休みがない。

思えば、去年の年末から休みなしだ。

この業界には年末進行というのがある。あたしが小さい頃、年末、印刷屋の父は家に帰ってこなかった。ドラマの『不適切にもほどがある!』で「働き方って、がむしゃらと馬車馬以外にあるのかね?」と阿部サダヲが言ってたけど、ほんとにそんなふうだった。あたしがこの仕事をし始めた頃、父が「あんたたちが遅れるからおれたちが帰れなくなる」と言ってたのをしみじみ聞いたもんだ。

例年、年末進行はクリスマス前に終わるのに、去年は終わらなかった。そのままお正月休みに突入し、地震が起きて飛行機が炎上して、すごいお正月だったが、あたしは休みなし。ひとつ書き終わってもまた次が来た。まるで昭和の頃の父そのもの。

忙しい忙しいと誰かに言ったら「みんな忙しいんですよ」と返された。そうだ、あたしだけが忙しいわけじゃない、自分が特別と思っちゃいけない、と反省した。でも忙しいもんは忙しいんだ、どうしたらいいんだい、とやるせない、やさぐれた気分になった。

しめきりは常に過ぎている。頭がふらふらするまで夜なべしているけど、終わらない。それで朝が起きられない。