噛む力は、歯の本数にも関係している

噛む力は歯の本数と関係していることも考えられます。

65歳以上の日本人2万人以上を対象に4年間追跡した調査では、歯が20本以上残っている人の死亡率に比べ、10~19本の人で1.3倍、0~9本の人で1.7倍上昇したと報告されています。

歯が多く残っている人ほど認知症や転倒のリスクが低いこともわかっていて、心臓疾患との関連も指摘されています。

こういったいくつもの理論に対してきちんとした科学的な裏づけがそろってくれば、心臓疾患の予防や治療に大いに役立つでしょう。

たとえば、噛む力が強い人と弱い人それぞれのバイオマーカー(生理学的指標)を測定してどんなときに、どのように動いているかを調査します。

噛む力に応じて咀嚼(そしゃく)のスピード、作業効率、食事量、食事内容にどのような変化があって、それが心臓に対してどのような影響を与えるのかデータを蓄積していくのです。

噛む力と心臓疾患の関係をはっきりさせるには、そうした研究や調査の積み重ねが必要で、それによって得られた知見が適切な医療につながっていきます。

噛む力や歯と心臓の関係について、今後のさらなる研究に期待しています。

※本稿は、『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー)の一部を再編集したものです。


60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(著:天野篤/講談社ビーシー)

60代、70代は、病気とともに生きている。だから、通院、投薬が合って当たり前。

問題はそんな日々のなかで、不本意に死ぬのか、天寿をまっとうするのか――。

上皇陛下の執刀医にして、世界屈指の心臓血管外科医がわかりやすく記した「命を落とすリスクを減らす」暮らしの処方箋。