名前の由来

赤染衛門の場合、父親が右衛門志だったので、衛門はこれに由来していると説明されています。

『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

右衛門志は衛門府の第四等官で、貴族にも入らない下級武官です。「門番の頭」程度の呼び方で、あまり名誉な名前とはいえません。

一方、「赤染」は彼女の姓に由来しています。衛門志だった父は赤染時用といいます。この赤染は、藤原や源、菅原などと同じ「氏」です。

といっても、六〜七世紀頃に、赤い染色を担当する集団のリーダーに与えられた氏で、高度な技術者らしく、渡来系の氏族です。つまりもともとごく狭い集団の名乗りだったわけで、平安時代を通じても、時用と衛門の他には有名な赤染さんはほぼいません。

ただ『大間成文抄』という鎌倉初期に編纂された人事記録集には、十一世紀末期に、備中掾、つまり岡山県西部の副々知事級の官職だった、正六位上赤染宿禰色経という人が見られます。やはり公務員としては上の方だけど貴族ではありません。