充実した人生を送った宮廷女性だったのでは
赤染衛門は、歌人平兼盛の娘ではなく、武官赤染時用の娘として、腕一本で歌人の名声を勝ち得ました。
一方で、平安時代の歴史を考える上で極めて重要な歴史物語の『栄花物語』の前半部(道長の時代まで)の作者なのがほぼ確実です。その資料としては、学者の家、大江氏の蔵書がさぞ役に立ったことでしょう。
赤染衛門は、父と夫を愛して、歌人として紫式部に尊敬され、結婚相手の家の強みを生かして歴史物語という新しいジャンルを確立し、曾孫である大学者匡房の顔を見るまで現役だった…。
つまり、平安時代でもまれにみる充実した人生を送った宮廷女性だと思うのです。
そして何と言ってもこの名前、大変印象に残るのです、おそらく現代も平安時代でも。
『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)
平安遷都(794年)に始まる200年は激変の時代だった。律令国家は大きな政府から小さな政府へと変わり、豊かになった。その富はどこへ行ったのか? 奈良時代宮廷を支えた女官たちはどこへ行ったのか? 新しく生まれた摂関家とはなにか? 桓武天皇・在原業平・菅原道真・藤原基経らの超個性的メンバー、斎宮女御・中宮定子・紫式部ら綺羅星の女性たちが織り成すドラマとは? 「この国のかたち」を決めた平安前期のすべてが明かされる。