三隅さんは、そのままバッティングセンターを出ていった。西森さんはまだロビーのベンチに座っていた。

「あの、ありがとうございました」

 にっこりと微笑む。

「何も聞いとらんが、まぁまぁ上手く行きそうなようだな?」

「はい。良かったです」

 何よりだ、って言って立ち上がった。

「あの男は頼りになる。私はもういつどうなるかわからんからな。もしも、もしもだぞ? この先の人生で、君やその友達に長坂の絡みで何かが起こるようだったら、相談してみるといい。連絡先は聞いたか?」

「いえ、何も」

「じゃあ、この後に誰かに教えるはずだから、それを聞いておけ」

 じゃあな、って手を上げた。

「あの、三隅さんホームランを三本打ったんです」

「おお、凄いな。話に聞いてたがなかなかのもんだな」

「景品はいらないから誰かにあげてもいい、って言ってたんですけど、西森さん、どうですか」

 眼を丸くした。

「いいな! 孫にやろう。野球部に入るんだ」

「あ、ちょうどいいです」

 バットもボールもある。グローブも、ひとつだけ残っている。

 今日は、〈バイト・クラブ〉に行く予定はなかったけど、すぐに伝えた方がいいと思うから、行こう。そこで、店長の河野さんにも電話しておけば、大丈夫だ。

 

小路幸也さんの小説連載「バイト・クラブ」一覧

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