男の人は慣れた様子で、バッティングの準備を始めた。

 すぐにわかる。この人は、野球の経験者だ。それも、かなりの実力者。ただ草野球しかやっていない人と、本格的に野球をやっている人の違いは、バットを持って振り始めたらすぐにわかる。

「高校で野球をやっていたんだよ」

 とても、よく通る声だった。そしてどこか優しい響きがあるいい声。

「そうですか」

 やっぱりそうだった。一球目を打った。いいスイング。きっとスラッガーだった人だ。そして今もずっと野球をやっている人。

「今も草野球だけどね。やってる」

「ポジションは」

「主に外野だね。キャッチャーもできるよ」

「肩が強いんですね」

「そうだ」

 こっちは見ないけど、嬉しそうに笑ったのがわかった。

「それで、お母さんと息子さんのことだけどね」

 夏夫くんとお母さんのことだ。名前を出さないのは、念のためなんだなってわかった。