「高校生の坊ちゃんに聞かせるような話じゃないんだが、まぁしょうがないか。ありゃあ、組同士の抗争っちゅうよりは、ほとんど個人の恨み辛みみたいなもんだと、思っとるんだがな」
「個人の、ですか」
三公さんだ。
「ということは、殺された長坂組長と、逃げているらしい、何だったかな名前は」
「黒川優馬(くろかわゆうま)です」
「その黒川の間で、組とは関係のないいざこざがあって、それが大事になってしまったってことですかね」
そういうことだろうな、って西森さんが言う。
それから、ふむ、って少し何かを考えるように上を向いた。一度、小さく息を吐いた。
「長坂に子供がいるっちゅうのはまるで知らんかったな」
「そうなんですか?」
思わず訊いてしまった。知っている人もいるって話だったけれど、意外と知られていないんだろうか。
「なんもかも知ってるわけではないわ。それっぽい言い方をすれば、足を洗ってもう二十年にもなる。おまけに本当のことを教えてしまえば、暴力団の組長みたいなことは確かにやっとったが、実際は金庫番だったんでな」
「金庫番」
「会計士だよ。もちろん本物のね」
三公さんが、すごく驚いていた。会計士って、なんか難しい資格だったと思うけど、詳しくはわからないけど。
「そんなこと、教えてもらっていいんですか」
「別に秘密にはしとらんよ。話す必要もないから誰も知らんだけでな。今は本当にただの一般人だからの」
「組長さんじゃなかったんですか」
西森さんが、苦笑した。
「まぁ表向きは、ヤクザに表向きも何もないか。そういう話にはなっとるんだがな。実質はただの金庫番、会計士に過ぎんかったんだよ。ただまぁ、金庫番といやぁ、組の生命線みたいなもんだ。大事にされる。だから、こうやって足を洗っても五体満足で平和な暮らしをしてられる」
「そうだったんですね」
「まぁ、それは別にどうでもいい話さ。確かに、その長坂の奥さんと子供の件は気の毒だわな。気になって夜も眠れんだろうし、子供のためにも良くない」
僕を見て、にっこり笑った。