「滝」の記号
段差を持った急流はしばしば「滝」と呼ばれるが、そもそも滝という言葉は水が激しく逆巻く(たぎつ)ところをそう呼んだもので、垂直に水が落ちるのは上代(じょうだい)では「垂水(たるみ)」と呼んで区別していた。
実際の滝と急流は境目が明確ではないが、地形図では「垂水」に近いものに記号を与えている。川の流れを遮る直角方向の線を引き、下流側の両岸に点を一つずつ配したものだ(下のイラスト左部を参照)。点は水しぶきをイメージしているという。
ただし、大規模な滝の場合は縮尺通りに描くと記号より実物が大きくなるので、点々はその規模に応じて多数置かれることになる。
「平成25年図式」では、滝として表現する対象は原則として落差が5メートル以上で、かつその領域の幅(普通は川幅)が図上0.8ミリ(2万5千分の1では20メートルに相当)以上のものを、水しぶき部分に「点列」を配した「滝(大)」の記号で示すと定めている。
落差はともかく面積が広い、たとえば「東洋のナイアガラ」などと呼ばれる大分県の原尻(はらじり)ノ滝、群馬県の吹割(ふきわれ)の滝などは点々が多く配されている。
反対に落差が巨大でも平面形が小さい華厳や那智のような垂直系の滝は「滝(小)」の記号で足りるから、記号の大小は滝の規模に比例しない。
前出の『地形図図式詳解』では、滝の記号について「瀑布ハ一条ノ三号線〔線の太さによる分類=引用者〕ニテ河川ヲ横断シテ水ノ落下スル稜線ヲ示シ、下流ノ側ニ於テ其線ニ沿ヒ若干ノ小点ヲ散布シテ泡沫ヲ擬スル」ものとし、さらに「瀑布ノ下流ニ於ケル水線ハ泡沫部ニ於テ参差(しんし)〔入り交じる〕シテ之ヲ止メ、波状ヲ為サシメテ躍流ノ景況ヲ現ハシ」と、滝が水煙を上げつつ滝壺に豪快に落ちる雰囲気を描写することを指示しており、現在よりずっとリアルだ。