(写真提供:Photo AC)
24年4月より放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』。伊藤沙莉さん演じる主人公・猪爪寅子のモデルは、日本初の女性弁護士・三淵嘉子さんです。先駆者であり続けた彼女が人生を賭けて成し遂げようとしたこととは?当連載にて東京理科大学・神野潔先生がその生涯を辿ります。先生いわく「嘉子は法廷においても、同じ女性だからこそ敢えて甘やかさないという姿勢を貫いていた」そうで――。

裁判官としての嘉子の姿勢

1949(昭和24)年8月、34歳の嘉子は、東京地方裁判所民事部の判事補に任用されました。

同年に判事補、検事に任官されていた石渡満子・門上千恵子に続き(2人は、戦後に司法研修所で男性と一緒に修習を受けた、最初の女性司法修習生でした)、嘉子も裁判官としての人生を歩み始めたのです。

嘉子が所属したのは東京地方裁判所民事第六部で、当時の裁判長は近藤完爾という人物でした。

嘉子は女性裁判官として注目を集める存在でしたが、裁判官としての法廷経験は全くなかったので、最高裁判所事務総局民事局長だった関根小郷の意向もあって、近藤はできる限り合議事件を増やして、早く嘉子が裁判事務に慣れるようにと働きかけました。

現在の地方裁判所での民事訴訟は、1人の裁判官で審理する単独事件が多いのですが、論点の複雑な事件や規模の大きな事件などは、3人の裁判官の合議で審理する合議事件になります。

単独事件にするか合議事件にするかは裁判所や裁判官が判断しますが、当事者から希望が出される場合もあります。この当時の東京地方裁判所民事部には、合議事件の多い部と単独事件の多い部との区別が設けられていたようです。