同じ女性だからこそ、甘やかさない姿勢

当時の裁判所では、女性裁判官には感情的で決断力が足りないという「弱点」がある、という決めつけもあったようですが、周囲の同僚たちは、嘉子からはそのような「弱点」を感じてはいませんでした。

むしろ、嘉子からは、(明るい笑顔で、聡明さを押し出すというようなところはないにも関わらず)働く女性の代表という強さが滲み出ていました。

また、嘉子のいた民事第六部の判事室には久米愛や野田愛子もたびたびやってきて、「女性法曹」たちの意見交換の場にもなっていました。

嘉子は法廷においても、同じ女性だからこそ敢えて甘やかさないという姿勢を貫いていました。

例えば、若い男女の愛情のもつれから起こった事件の合議においては、嘉子は「女性ならでは」という視点からの指摘をする一方で、当事者が女性だからかばうというようなことは一切ありませんでした。

むしろ女性に対して厳しく批判的な意見を述べたりすることもよくあったようです。

※本稿は、『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。


三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(著:神野潔/日本能率協会マネジメントセンター)

2024年度・前期連続テレビ小説「虎に翼」のモデルは、日本初の女性弁護士の一人であり、初の女性判事及び家庭裁判所長・三淵嘉子(みぶち・よしこ:主演・伊藤沙莉、脚本・吉田恵里香)。

本書では、三淵嘉子の生誕から晩年までの生涯と、嘉子とともに歩んだ家族、友人、同僚たちについて紹介する。

嘉子が生涯を賭して成し遂げたかったこととは何だったのか。

「女性活躍」が求められる今にあって、その先駆者の生涯が今、明らかになる。