公平な視点を持った先輩裁判官

ただし、近藤はあくまでも経験の少ない裁判官への配慮としてこのように考えただけであって、嘉子が女性裁判官だからというような理由で、気を遣っていたわけではありませんでした。

近藤は、最初に嘉子に会った際に、「あなたが女であるからといって特別扱いはしませんよ」と言い、その言葉は嘉子の心にいつまでも残り続けました。

『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(著:神野潔/日本能率協会マネジメントセンター)

嘉子は後に、近藤から受けた指導が「私の裁判官としての生き方を決定した」と振り返っていますが、近藤のような公平な視点を持った先輩裁判官たちとの出会いが、嘉子の裁判官人生を満たされたものにしていきます。

実際のところ、嘉子は近藤のもとで明るくのびのびと仕事に打ち込み、経験を積んでいくことや、新しい知識を吸収することにも熱心でした。

近藤から見ても、経験の少なさに対する配慮などは必要のない様子であったようです。