「人間」として見られるように
嘉子は合議の場においても物怖じせず自由に発言し、とはいえ言いたい放題なわけでは全くなく、他の裁判官の意見にもいつも丁寧に耳を傾ける平衡感覚がありました。
柔軟な思考の持ち主であった嘉子がいるだけで、裁判官室の雰囲気は明るくなり、誰もが思ったことを言いやすい空気に包まれたそうです。
嘉子は、自身の考える男女の真の平等を実現するためには、職場において女性は甘えないこと、そして男性が女性を甘やかさないことが大切だと考えていました。
人間として全力を尽くすときには、男性も女性もないのであって、むしろ「女性だから」という甘えの方が許せないものだという気持ちが、嘉子の中にはありました。
この頃の裁判所では、数少ない女性裁判官に対して、男性裁判官が優しいいたわりを見せることがしばしばありました。
しかし、そこから来る「特別扱い」こそが、かえって女性裁判官と男性裁判官とのあいだに壁を作っているところがあり、それは女性裁判官にとっても不利益であると嘉子は感じていました。
女性としてではなく、人間として見られるように。
それは、嘉子が最後まで持ち続けた強い意識でした。