アマチュアの落語家として、余興で一席。キッチンにつくられた即席の高座で(写真提供:どんぐりさん)

 

監督は「生きづらそうな人」を出演者に選んだ

後に聞いたことですが、監督は「生きづらそうな人」を出演者に選んだそうです。そして「あて書き」で書いた脚本が、「みんなの次につながるように」と考えながらつくってくれたそうです。ほんまに優しい方だし、天才ですよね。実際、あの作品のおかげで、私は一気に生きやすくなりました。

ずっと、生きづらかったですよ。背が低くて、目が小さくて、声はこんなんやし。自分の声を初めてテープで聞いた時は愕然として、受け入れられなかったです。「ブス」と言われたこともあります。

自分では何の不満もないのに、周りが「この先、どうするんや」とプレッシャーをかけてくる。私の親の世代は、いわゆる世間体を「常識」として生きてきているから、結婚することや子どもを持つことが幸せ、と本心で思っていて責めることもできない。かといって、誰も私の人生に責任なんかとってくれないんです。ほんまに生きづらかった。

でも落語を習い、NSCに通い、演技にも挑戦したことで、自分の容姿や声を、個性として生かせることもあるのだとわかりました。生きづらさの原因だったものが、「全部そのままでいい」と言われたようなもんです。

20代でNSCに入っていればよかった、とも思いません。その時選ばなかったんだから、思ってもしょうがない。それこそ周りに若くてきれいな人がいっぱいいただろうし(笑)。いろんな仕事をしてきた今の私だから、経歴も面白がってもらって、こうしてお仕事をいただけてるような気もしています。

去年はマッターホルンを見たくて、言葉もわからないのに、はじめてスイスに一人旅をしました。いつものように「何とかなるやろ」と思って(笑)。今使っているバッグは、その時の思い出の品。買ったあとに、目立つ傷があることに気づいたので店に戻って返品しようとしたら、少しマケてもらえました。もう怖いものなしです。(笑)

人生、何がどうなるかわかりません。私はただ、自分の直感のままに生きていたら、「これだ!」と思える道筋がやっと見つかった感じです。