取るに足る
中央公論新社の『ジェンダーレスの日本史』(2022)など、数々の快著で知られる大塚ひかりさんが、面白い指摘をされています。
古文には「数ならぬ身」(取るに足らない私)という言葉がしばしば出てくるが、これはもっぱら国司に任官する層の貴族が自己表現として用いる言葉である、というのです。
では物の数にしっかり入っている、「取るに足る」のはどういう層の人かというと、これは中央の官職を帯びている貴族たち。
中納言とか右大臣とか、中央の官職に任じている貴族はAクラス。
一方、越前守とか武蔵守など、県知事レベルの貴族はBクラス。
Bクラスの彼らは、実績を挙げればより豊かな国の国司に栄転することはあっても、中央政界入りはできません。AクラスとBクラスの間にはなかなかに高い壁が存在したのです。
ちなみに陰陽師などの下級官人は、その下のCクラス、ということになります。