入浴のメインイベント「洗浄」

入浴の最大の目的は「洗浄」であることが多いですが、洗浄に関わるメカニズムは温熱発汗、アルカリ性、界面活性剤の3つです。

まず温熱によって新鮮な汗と皮脂がそれぞれエクリン腺と皮脂腺から出されます。

もう一つアポクリン腺もありますがこちらは温熱よりも精神性刺激によって活発になりますから入浴の発汗にはあまり関与していません。

エクリン腺から排出される汗は99%以上が水分であり、わずかにミネラル、乳酸塩、尿素、皮脂が含まれます。

皮脂腺から出される皮脂はまさに油成分であり、トリグリセリド(油脂)、ワックスエステル、脂肪酸、スクアレンなどです。

トリグリセリドの多くは常在菌によって脂肪酸とグリセリンに分解されます。

なかでも脂肪酸は優秀な界面活性剤であり、古い皮脂を水に溶かし込みます。

溶かし込まれた古い皮脂はエクリン腺から出された汗によって浮かし出され、お湯によって洗い流されます。

多くの古い皮脂はこうして温熱と発汗によって洗浄されますが、古いたんぱく質を落とすにはアルカリ性が威力を発揮します。

固形石鹸は弱アルカリ性ですが、実はこの弱アルカリ性こそが適度な洗浄力として働きます。

そのため弱アルカリ性の温泉では石鹸がいりません。

こうした基本的な洗浄メカニズムをながめると、洗浄剤に中性や弱酸性は求めすぎないほうがいいのではないかと感じます。

もちろん泡切れの悪い洗浄剤がアルカリ性だと肌に残って刺激になってしまいますが、だからこそ泡切れの良い純石鹸はベストです。

弱アルカリ性で古いたんぱく質を溶かして浮かせて、さっと洗い流すのは肌の洗浄に適しています。

こうした発汗とアルカリ性による洗浄でも不快感が残ってしまう場合に、界面活性剤(洗浄剤)の出番です。

冒頭に、洗浄剤はあくまでも「補助的な洗浄」だと表現しました。

温熱発汗とアルカリ性石鹸によってほどよく洗浄することに肌が慣れれば、いわゆるタモリ式入浴が完成します。

純石鹸も使うか、使わないかの二択ではなく、使用量の調節やオンオフが重要です。

※本稿は、『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』(晶文社)の一部を再編集したものです。


美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』(著:尾池哲郎/晶文社)

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