「ですから、私の口からは言いたくないんですよ。今、谷津さんの機嫌を損ねるようなことをやっちまったら、逮捕されかねませんからね」
「谷津が逮捕だと?」
仙川係長が言った。「そんなことはさせない。あんたらを逮捕するのは、俺の役目だ」
阿岐本はうなずいた。
「……というわけで、私は少々疲れましたので、上で休ませていただきます」
阿岐本がまた頭を下げて、仙川係長に背を向ける。仙川係長は何も言わず、阿岐本の後ろ姿を見送った。
甘糟が日村に言った。
「谷津はどうしてあんたらを署に連れていったの?」
「谷津さんから連絡があったんでしょう? 何と言っていたんです?」
「ただ、阿岐本組の二人を預かったと……」
「おい」
仙川係長が言った。「余計なことを言うな」
「あ、すいません」
甘糟がたちまち小さくなる。「でも、経緯を知っておいたほうが……」
仙川係長が日村を見て言った。
「どこでどういうふうに、谷津に捕まったんだ」
「中目黒の不動産屋にいたら、谷津がやってきて……」
仙川係長が言った。
「おまえが呼び捨てにするな」
「谷津さんがいらして……」
「なんで、中目黒の不動産屋なんかにいたんだ?」
日村がこたえようとすると、先手を打つように仙川係長が言った。
「待てよ。部屋を探していたなんていう見え透いた嘘はつくなよ」
あわせて読みたい
おすすめ記事