そして、仙川はふと気づいたように甘糟を見た。「そうだ。君が電話してくれ」
甘糟が目を丸くする。
「え? 自分がですか?」
「そうだ。それがいい。どうして、阿岐本組の二人が不動産屋を訪ねていることがわかったのか。そして、何のために署に連行したのか。いったい、中目黒署管内で何が起きているのか。それを聞き出すんだ」
甘糟が泣きそうな顔になる。
「えー? どうしても僕が電話しなきゃならないんですか?」
「そうだ。上司の命令だ。そうと決まれば、署に戻ろう」
仙川係長は出入り口に向かった。
甘糟は日村に「じゃあね」と言って、仙川係長を追っていった。
二人が事務所を出ていくと、健一が言った。
「警察に捕まったんですか?」
日村は「ああ」とこたえた。
「それ、いつ頃のことです?」
「たしか、五時半を過ぎた頃だったと思う」
「それでもうお帰りですか。よく出てこられましたね」
「オヤジが刑事と話をしたらしい」
「どんな話ですか?」
「刑事が興味を持つような話だ」
「西の直参の話ですか?」
「そうだ。だが、俺も詳しい話の内容は知らない」
健一たち若い衆は互いに顔を見合わせている。彼らは緊張しているのだ。
この先どうなるか心配しているのだろう。
日村も心配だった。