原因はまだ明らかになっていない

自閉症は、いわゆる発達障害の中に含まれる疾患である。文部科学省によると、自閉症は次のように定義される。

(1)他人との社会的関係の形成の困難さ
(2)言葉の発達の遅れ
(3)興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害

自閉症という言葉を知らない人はいないだろう。しかしこの定義を読んで、みなさんは自閉症の子どもの具体的なイメージが浮かび上がるだろうか?

現在では自閉症は、正式には自閉症スペクトラム障害と言う。スペクトラムとは連続体という意味で、重度の知的障害を伴う子どもから、まったく知的な遅れがない子まで幅があるからである。

後者の場合をアスペルガー症候群とか高機能自閉症と表現する。自閉傾向の強さや知能の高さには大きな幅があり、一人ひとりの症状には明白な区別はなく、連続体を形成している。

『発達障害に生まれて-自閉症児と母の17年』(松永 正訓:著/中央公論新社)

 

私のクリニックをかかりつけとした子どもの中には、自閉症児が10人近くいる。もちろん風邪などを理由に私のクリニックを利用しているだけで、私が自閉症児の療育をしているのではない。中には一目見て自閉症と分かる子もいるが、保護者の書いた問診票の自閉症という文字を見ても、健常児とどこが異なるのかにわかには分からない子もいる。

自閉症は先天的な脳の疾患である。原因はまだ明らかになっていない。現在のところ治療法はない。自然治癒することもない。自閉症として生まれた子は、自閉症の一生を過ごすことになる。そういう意味では、疾患というよりも、障害という言葉を使った方が適切かもしれない。

自閉症スペクトラム障害と注意欠如多動性障害、学習障害の三つを合わせて発達障害と呼ぶ。近年、発達障害の子どもが増えていることが多くの医療機関から報告されている。通常学級の15人に1人は発達障害であるという報告もある。特別支援学校や学級にいる発達障害の子を含めれば、10人に1人は発達障害という指摘もある。

診断技術が進歩したために患者数が増加することはどの病気にでも見られることであるが、やはり発達障害の子どもは増加しているとほとんどの医者が認識している。

治らない障害ではあるが、早期の療育は重要だと考えられている。このため、千葉市の1歳半健診では、数年前に子どもの社会性のチェック項目が増やされた。つまり、「困難なことに出会うと助けを求めますか?」や「他の子どもに関心を持ちますか?」などがそうである。発達障害に対する保護者の関心は明らかに高まっている。

冒頭の少年は、大きなくくりで言えば、発達障害として生まれた子という表現になる。正確に説明すれば知的障害を伴う自閉症という診断名になる。