市村 僕はね、草笛さんと《血》が同じだと思ってるの。
草笛 確かに、そうかもしれないわね。私は歌と踊りと芝居を結婚させるのがミュージカルだと思っているの。それをどんどん掘り下げていきたい。だからあなたみたいにその3つのことがちゃんとできる人と舞台をご一緒すると、1回だけでもうんと何度も共演したような気がしちゃう。
市村 でも実際は3回だけなのよ(笑)。最後に共演したのは、3年前の『ラヴ・レターズ』だったかな。幼馴染の男女の、50年にわたる手紙のやりとりを描くリーディングドラマ。
草笛 あれはよかった。あるところまできたら私、胸がいっぱいになって、自然と涙が出てきたのね。「ああ、この人、役者として本当にすばらしい」って思いました。
市村 あははは。言っていい?『ラヴ・レターズ』は誰がやってもじーんとなるの(笑)。だってホンが素晴らしい作品なんだから。
草笛 でもさ、あなたがいい役者であることは確かよ。
市村 ありがとう。嬉しいですよ。だって僕が草笛さんの舞台をはじめて観たのは20歳のときで、まだ役者になる前のことなんですから。
草笛 あら、なにを観た?
市村 『ラ・マンチャの男』。草笛さんの、あのアルドンザを観たときのショックは忘れられないね。
草笛 どんなだった?私。
市村 あばずれで、ひたむきで、健気で、悲しくって。そしてすごく色っぽい。
草笛 『ラ・マンチャの男』は私の女優人生の大きな転機になりましたね。ミュージカルはきれいな格好をして歌って踊るものと思っていたから、ニューヨークで観て度肝を抜かれて、なんとか日本上演にこぎ着けた。
当時、30代後半だったけれど、あの激しいアルドンザをやり通すために毎朝5時に起きて歩いて、体をつくって挑んだの。「今日死んでもいい」くらいの思いで、命を懸けてました。