寺尾の書いたメモ
事務所に貼られた親方のメモ。真面目で、優しい性格が窺える(撮影:本誌編集部)

彼は、私の最大の趣味だった

今でも思い出して泣いてしまうのは、寺尾の奥歯が全部割れていて、残っていなかったことでしょうか。最後の入院中に歯を磨いてあげている時、初めて気づいたことでした。虫歯は1本もないのに、前歯も摩耗してちっちゃくなって、もう4ミリくらいしかなくて……。

同期の八角理事長(元横綱・北勝海)が、昔、「奥歯が残ってるような力士じゃダメだ」と言っていたのを思い出しました。相撲を取る時、グーッと歯を食いしばって力を入れるから、力士は奥歯が割れてしまうんですね。

でも、まさかここまでとは思わなかった。びっくりして「こんなになるまで頑張っていたのね。ありがとう」という気持ちで、毎日、寺尾の歯を磨いていました。

寺尾と結婚して、本当によかった。優しくしてもらいましたし、女冥利に尽きた人生だったので。

たとえば女性は、ファッションの一部としてバッグを持ったりしますよね。でも寺尾は私に持たせない。「女性に物を持たせてはいけない」と言われて育ったらしく、重くもない小さなバッグを、大事そうに胸に抱えるように持つんです。こちらが恥ずかしくなるくらい。

私だけじゃなくて誰にでも優しかったから、きっと勘違いした女性もたくさんいたんじゃないかしら、とも思いますが。(笑)