老後の状況は千差万別

「老後、私は何をするでしょうねえ。趣味とかあれば良いんでしょうけど、趣味という趣味もなくって」。これまで、仕事と闘病だけで手一杯でした。「定年までの3年で、趣味を見つけなくちゃって焦っています」。真梨枝さんの定年は、もうあと3年後です。

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幸福な家庭はいずれも似通っているが、不幸な家庭はそれぞれに趣が異なる――というトルストイ『アンナ・カレーニナ』の一節を、老後の取材をしていると、いつも、モトザワは連想します。

「子育て中の家庭はいずれも似通っているが、老後の家庭はそれぞれに趣が異なる」と、言い換えたくなるからです。子どもの成長はある程度ベクトルが似ていますが、老後の状況は家庭ごとに、事情がまったく千差万別です。

大企業の正社員で、実家は持ち家で、両親も健在、という真梨枝さんの条件は、かなり恵まれていると言えるでしょう。

ただし、持病がラッキーすべてを吹き飛ばし、トータルでは恵まれているとは言い難い状態です。老後に必要になる、お金と、住まいと、健康と。アラ還世代で、いずれも心配せずに老後を迎えられる「恵まれている」人はほんの一握りなのだと、毎度、痛感させられるモトザワです。

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