書くことで耐えられる

父が亡くなると、母を引き取り、8年間、自宅で介護しました。母を見送った後、私はすることがなくなり──確か当時、60代前半だったと思います。

このまま何もせずに老いて、母のように寝たきりになるのはイヤだなぁと思って。ふっと思いついて、朝日カルチャーセンターの文章教室に通うことにしました。

それを夫に告げたら、興奮したように「うれしい」と言って、なんと泣き出したんです。それには、本当にびっくりしました。彼はそれまで何も言わずに、私が「書く」ことをずっと待っていてくれたんですね。あら、思い出語りをしている私まで、涙が出てしまいました。(笑)

課題を提出したら、教室の先生(作家の高井有一氏)から、「半藤さんは書ける人ですよ」と言っていただけた。私、おったまげちゃって(笑)。だって、それまで書いたことがなかったんですもの。

そうしたら、夫の元に来ていた編集者が「ぜひ見せてください」。書き溜めたものをお渡ししたところ、「これは売れますから、私が本にします」と言ってくださいました。