厚生労働省の「令和4年度 国民生活基礎調査」によると、同居している家族が介護を行う割合は全体の45.9%で、そのうち<子の配偶者>は5.4%だそう。そのようななか、翻訳家・エッセイストとして活躍する村井理子さんは、仕事と家事を抱えながら、認知症の義母と90歳の義父の介護を続けています。そこで今回は、村井さんの著書『義父母の介護』から一部引用、再編集してお届けします。
緊急入院
2019年の夏の盛りの8月下旬、その日は突然訪れた。
いつものように子どもたちを送り出し、締め切り迫る原稿を必死に書いていたそのとき、義母から入電したのである。
しかし、その内容はまったく要領を得ないものだった。
義父が倒れて、いま近くの病院にいるが、次にどこかに行くらしいと小さな声で義母。
「どこかに行く」とはどういうことなのかと聞き直す前に、電話は唐突に切れた。義母の混乱と狼狽に、言い知れぬ不安で胸がいっぱいになった。
これは何かがおかしい。義母の携帯電話を鳴らしても全く反応がない。
しばらくすると再び義母から電話がかかり、状況をやっとのことで把握した。
義父に軽い脳梗塞の症状がでて、たまたま家にいた義父母が営む和食店のアルバイトのケイちゃん(30代)の助けを借りて病院に運び込み、そして救急車で別の大きな病院に搬送されたらしい。
その病院で脳梗塞と診断されて、そのまま救急病棟で点滴を受けた。状態も安定して、本人は会話もできているし、元気だという。
命に別状がないことを確認し、夫に病院に直行するように伝えると、私はとにかくやらなければならない仕事を片付けて、病院に向かった。
義父の病状は深刻なものではなく、顔色もよかった。症状がでてすぐに病院に行ったことが功を奏したという話を主治医から聞かされた。
本人は驚いた様子だったが、次第に落ち着きを取り戻して冷静に話もできるほどだった。その後も順調に回復を遂げ、小康状態となってからはリハビリ病院に転院し、日夜リハビリに励んだ。
心配なのはむしろ義母だった。