残酷な現実

元の静かな生活に戻りたい。義理の両親が求めているのは、それだけなのだと手に取るようにわかる。

たったそれだけのことなのに、当時の2人には大きな課題だった。

簡単なものごとが人生最大の難関になるのが老いであり、病だ。

今まで手中にあったものがあっという間にこぼれ落ち、二度と元には戻らない。それを目の前で見ていることしかできない。

現実とはなんて残酷なものなのだろうと思わずにはいられない。それでも少しばかりは現実に抗って、戦わなくてはならないと2人も感じているだろう。

いま、でっかい「人生」という文字が、私の頭上にドカンと落ちてきている。

苦労してきたあんなこともこんなことも、腹が立って仕方がなかったあの言葉も態度もすべて消え失せた。

私の目の前にいる2人は、すっかり力を失い、誰かの助けが切実に必要になった老人である。

※本稿は、『義父母の介護』(新潮社)の一部を再編集したものです。

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