残酷な現実
元の静かな生活に戻りたい。義理の両親が求めているのは、それだけなのだと手に取るようにわかる。
たったそれだけのことなのに、当時の2人には大きな課題だった。
簡単なものごとが人生最大の難関になるのが老いであり、病だ。
今まで手中にあったものがあっという間にこぼれ落ち、二度と元には戻らない。それを目の前で見ていることしかできない。
現実とはなんて残酷なものなのだろうと思わずにはいられない。それでも少しばかりは現実に抗って、戦わなくてはならないと2人も感じているだろう。
いま、でっかい「人生」という文字が、私の頭上にドカンと落ちてきている。
苦労してきたあんなこともこんなことも、腹が立って仕方がなかったあの言葉も態度もすべて消え失せた。
私の目の前にいる2人は、すっかり力を失い、誰かの助けが切実に必要になった老人である。
※本稿は、『義父母の介護』(新潮社)の一部を再編集したものです。
『義父母の介護』(著:村井理子/新潮社)
認知症の義母と90歳の義父。
仕事と家事を抱え、そのケアに奔走……。
ホンネ150%、キレイごとゼロの超リアルな介護奮闘記。