(写真提供:新潮社)
今や結婚した夫婦の約3組に1組が離婚するという日本。離婚理由はさまざまですが、「不倫」が原因となることも。直木賞・柴田錬三郎賞を受賞した作家、唯川恵さんが話を聞いた方の中には、74歳にして夫の不倫を知った女性もいたのだとか。今回は、その74歳・郁代さんへのインタビューを3回に渡ってお届けします。出産後専業主婦だった郁恵さんは、バブル崩壊の影響で再び働くことに。大学時代に同じサークルにいた友人・晴恵さんが自身の仕事先を紹介してくれ、無事就職。そこで郁代さんは「なんとなく職場の人間関係がぎくしゃくし始めたんです」と言っていて――。

社長との不倫の噂

妻が働きに出ることで、夫婦関係は変わったのだろうか。

最近は共働き夫婦が多く、家事も子育てもふたりで協力し合っていくのが当たり前となっているが、あの時代はまだ、男は仕事に邁進し、女は家庭を守る、という概念が根強く残っていた。妻が働きに出るのは構わないが、家事や育児に影響が出ない程度に、が夫側の条件だという話もよく耳にした。

「うちの場合、決まったらもう何も言いませんでしたね。夫は仕事の依頼があれば仕事をするけれども、そうでないときは業界の人と飲んでばかりでした。とは言え、そういうところから仕事に繋がっていく業種だということはわかっていましたし、元々家にあまりいない人だったから、特に問題はありませんでした。娘たちは安心して両親に預けられるし、仕事の方も私が買付けた商品がよく売れて、すべて順調でした」

それは何よりです。

「そのまま1年ほど過ぎて、すっかり働くことに慣れた頃に……なんとなく職場の人間関係がぎくしゃくし始めたんです」

何があったのですか。

「私は買付に出ていて、ほとんど店舗やオフィスにいなかったからよくわからなかったんですが、晴恵ちゃんから聞いたところ、どうやら社長が社内で不倫をしているらしいって話でした。確かに、年の割に雰囲気のある男性で、そういうこともあるかもしれないなって感じでした。社内では、相手は誰だって犯人捜しみたいなことも始まっていたようです。私は外回りが多いので、ほとんど関知していなかったのですが」

何だか、悪い予感が。

「ご推察の通り、いつの間にか相手は私ということになっていました」

火のないところに煙は立たない、とも言われるが。

失礼を承知で言わせてもらうが、思い当たるふしはなかったのだろうか。

「社長とは時々一緒に仕入れ先に出向いたり、時には接待に同行したりもしていましたけど、それだけです。事実無根です」