夫の告白
「それでも最近は少し落ち着いて、夫ともよく話すようになりました。他愛ない話です。学生時代のこととか、家族の思い出話なんかをしていたんですけど、先日、あの時のことが思い出されて話をしたんです」
不倫の濡れ衣の話ですね。
「ええ、あの時はすごく辛かったけれど、あなたが信じてくれて嬉しかったって言ったら、夫が突然、私に頭を下げたんです。あの時はすまなかったと」
え、それはいったい。
「夫は晴恵ちゃん、もう呼び捨てでいいですよね、晴恵と不倫していたことを白状しました」
ええっ。
驚きの展開である。
「たまたま仕事先で顔を合わせて、久しぶりだから飲みに行こうとなって、それからだそうです」
いつ頃の話だろう。
「下の娘が生まれた頃ですね」
どれくらいの期間を?
「私に最初のがんが判明した時まで続いていたそうです」
ということは30年以上も。
「びっくりしたなんてものじゃありません、まさに青天の霹靂」
それはあまりにも酷い裏切りである。
「夫は、しょっちゅう会っていたわけじゃない、2、3か月に一度ぐらいとか言ってましたけど、本当かどうか。私の病気がきっかけで、これじゃいけないって思って別れたそうです」
もし病気が判明しなかったら、もっと続いていたかもしれない。だとしたら、言い訳にもならない。
「昔から遊び相手がいたのはわかっていましたけど、いつも玄人さんだったし、黙認してきました。それが悪かったのかもしれません。夫の話によると、晴恵は学生時代から夫のことが好きだったそうです。もちろん彼女にも家庭はあってお子さんもいて、互いに家庭を壊す気はなかったようなので、恋愛と言っていいものか、割り切って付き合っていたところはあったと思います。
あの就職の件も、バブルが崩壊して仕事が激減してしまった夫から、私が働きたがっている話を聞いて、晴恵は自分が勤める会社を紹介することにしたらしいです。夫は反対したようですけど、晴恵は話をどんどん進めて、もう止められなかったと言っていました」
だからあの時、ご主人はあまり乗り気ではなかったんですね。
「そういうことです。それにしても、不倫がバレたら困るのは晴恵なのに、どうしてそんなことをしたのか最初は理解に苦しみました。もしかしたら優位に立ちたかったのかもしれません。夫曰く、晴恵は学生の頃から私をライバル視していたそうです」