後味の悪い結末

身に覚えはないと。

「もちろんです。聞いた時は本当にびっくりしました。どうしてそんなことになったのか見当もつきませんでした。最初は馬鹿らしくて放っておいたんですけど、噂はあっという間に広がって、店に顔を出すと、ついこの間まであんなに和気藹々だったのに、露骨に避けられるようになってしまったんです。小さい会社でしょう、こういう時、逃げ場がないんですよね。

それで晴恵ちゃんに相談したんです。彼女はすごく心配してくれて、ちゃんとみんなに説明しておくし、放っておけばじきに誤解も解けるわよって言ってくれたので様子を見ていたんですけど、状況は悪くなるばかりでした。半年近く経った頃、さすがに社長も問題視して、みんなの前できっぱり否定しました。私もそういう事実は一切ないって説明しました。でも状況は変わらないまま。ついには社長の奥さんの耳にまで入ってしまって」

大事になってしまった。

『男と女:恋愛の落とし前』(著:唯川恵/新潮社)

「そのうち、晴恵ちゃんからこんなことを言われました。もう不倫が本当かどうかの問題じゃないって。みんな、あなたのことが信用できなくなっているって。それに自分が紹介した人が原因で社内の雰囲気がぎくしゃくするようになっていることに耐えられないって、泣かれてしまいました。そんな晴恵ちゃんを見て、これ以上迷惑は掛けられないと思って、それで辞めることにしたんです。誤解を完全に払拭できなかったのは悔しかったけれど、もうどうしようもありませんでした」

後味の悪い結末でしたね。

「夫は私を信じてくれていたので、それがせめてもの救いでした。次の仕事を見つけて心機一転頑張ろうとしたんですけど、やはり3年ぐらいは引き摺りましたね。人が信じられなくなったし、陰で誰に何を言われるかと思うと怖くて。今も何かの拍子にあの時のことが思い出されて、嫌な気分になります」

生きていれば理不尽な扱いを受けることもある。

さぞかし悔やしい思いにかられただろう。