(イラスト:横尾智子)
国立がん研究センターによると、2021年に日本でがんで死亡した人は381,505人。日本人ががんで死亡する確率は男性26.2%(4人に1人)、女性17.7%(6人に1人)。がんにかかったら必ず命を落とすということはなくなっていますが、それでも発見の時期やがんの種別によって、その確率は大きく変わってきます。
竹中伊都子さん(仮名・愛知県・主婦・68歳)は、夫が末期の食道がんと判明。「なぜ早く気づけなかったのか」と自分を責めてもあとの祭り。抗がん剤と手術で疲弊してもなお明るく優しい夫を、全力でサポートし続けた日々を振り返ります――。

撮った画像には明らかに影が見えた

あっ、来た。また来た。鼻がツンとするのと同時に、目に涙があふれる。1日数回、泣くのが趣味のようになってきた。「いつでもどこでも泣ける人選手権」があれば、私は上位入賞できる。

いっそのこと、夫の顔も声も忘れてしまえればどんなに楽だろう。もともと私としては、夫が先に逝き、自分は看取ったあとに死ねたらいいなと思っていたので、その願いだけはかなった。

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「旦那さんは食道がんです。胃の下のリンパに転移があり、ステージIV。完治は難しいと思います」。3年前、医師に告げられたとき、テレビドラマでよく見るような、ガーンといったショックはなかった。とにかく子どもたちに知らせねば。医師の指示通りに動かねば。やりかけた仕事も断らねば。そして大きな不安が頭をよぎる。夫は死んじゃうのかな……。

その数ヵ月前、食欲が減退して痩せた夫を連れて、近くのクリニックへ行った。逆流性食道炎との診断で、ピロリ菌除去の内服薬をもらい、ひと安心。「2年に1回は、がん検診を受けようね」と夫婦揃って健康診断に行ったのが、がん発見のきっかけだ。画像を見た医師から、「がんじゃないと思うけど、心配なら紹介状を書きますよ」と言われたのだ。

画像には明らかに影が見える。素人の私もただごとではないと直感。すぐさま紹介された総合病院へ向かった。医師は「がんです。うちでは手術が難しいのでがんセンターを紹介します」とその場で電話してくれた。手術はせず、抗がん剤治療の入院を告げられる。

なぜ一緒に暮らしていて気づいてあげられなかったのか。しかもステージIVだなんて……。自分を責めてもあとの祭り。夫の世話に専念すると決めた私は仕事を辞め、全力でサポートすることに。夫から「お母さん、ずいぶん優しくなったね」とからかわれた。